AI/DX成熟度診断の項目を、戦略・目的、データ・基盤、業務への適用、組織・人材、ガバナンス・定着の5分野30問で整理した。DX推進指標との違い、診断の手順、スコアの読み方と弱い分野からの着手順まで解説する。

AI/DX成熟度診断の5分野30問で現在地を点検する

AI/DX成熟度診断の項目は、戦略・目的、データ・基盤、業務への適用、組織・人材、ガバナンス・定着の5分野に分けると整理しやすい。各分野6問、計30問を「はい/いいえ」で答えればよい。自社のどこが整い、どこで詰まっているかが見えてくる。

以下、公的なDX推進指標との違い、診断の手順、スコアの読み方と次の一手までを順に示す。

AI/DX成熟度診断とは?

AI/DX成熟度診断とは、自社のAI活用とデジタル化の進み具合を分野ごとの項目で点検し、いまの位置と次の課題をはっきりさせる取り組みである。

ねらいは点数をつけることではない。投資や体制づくりの順番を決める材料を得ることにある。DXは全社の業務や事業のしくみの変革を扱う。一方のAI活用では、個々の業務への当てはめと、データや使い方のルールの整備が論点になりやすい。両者を同じ枠で測ると、全社の方針と現場の取り組みのずれが見えやすくなる。

AI/DX成熟度診断では何の項目を見るのか?

見るべき項目は、目的とKPI、データのありかとセキュリティ、当てはめる業務、推進の担当とスキル、使い方のルールと振り返りの5系統である。30問ほどに絞ると、答える手間と網羅性を両立しやすい。

項目を選ぶときは、ツールの有無ではなく「状態」を問う。たとえば「生成AIツールを契約している」とは問わない。「AI/DXで解決したい事業課題が具体的に言語化されている」と問う。

理由はかんたんだ。

ツールの数は成熟度と一致しない。契約だけ進んで使われていなくても、ツールの数で測れば高い点が出てしまう。診断項目で扱う観点は、次の4つの問いにまとめられる。

  • 何のために導入し、成果をどの指標で測るか
  • AIが動くデータと仕組みの土台はあるか
  • どの業務で、どこまでAIに任せるかが決まっているか
  • 現場で使われ続け、安全に広げられる体制があるか

診断項目はどの分野に分けて整理すればよいか?

戦略・目的、データ・基盤、業務への適用、組織・人材、ガバナンス・定着の5分野に分けるのが実務的である。前の3分野が導入の準備、後の2分野が定着の度合いを示す。

5分野の分け方は独自の整理であり、業界の標準ではない。公的な指標と一緒に使うことを前提に、AI活用まで含めて点検しやすい細かさに分けている。

分野問うこと弱いと起きやすいこと
戦略・目的何のために導入するかツール導入が目的化し、効果を説明できない
データ・基盤AIが動く土台はあるか検証止まりになり、情報漏えいの懸念で止まる
業務への適用現場で使われるか使う業務が決まらず、試用で終わる
組織・人材使い続けられるか一部の担当者に依存し、横展開しない
ガバナンス・定着安全に広げられるか無許可の利用が増え、出力の確認が追いつかない

分野ごとのチェック項目は何か?

各分野6問、計30問を「はい/いいえ」で答える。「はい」は議事録や資料などの根拠を1つ示せるときだけに限る。こうすると自己評価の甘さを抑えられる。

下の表では、設問ごとに根拠の例も添えた。迷ったら、この例に当たるものを手元で示せるかで決めるとよい。

戦略・目的

設問「はい」の根拠の例
AI/DXで解決したい事業課題が具体的に言語化されている企画書や経営会議の資料
導入の優先順位が「効果 × 着手しやすさ」で整理されている候補を並べた一覧表
成果を測る指標(KPI)と現状値が決まっているKPIの定義と、いまの数値
経営層が推進の意思決定者として関与している決裁の記録
「ツール導入」ではなく「業務の成果」をゴールに置けている目標の書き方そのもの
3〜6ヶ月で何を達成するかのロードマップがある月ごとの計画表

データ・基盤

設問「はい」の根拠の例
業務で使うデータの所在と形式が把握できているデータの一覧
部門をまたいでデータが分断していない、または解消の見込みがある連携の計画、またはすでに共有している実態
AIに渡してよい情報・いけない情報の線引きがある社内向けの文書
既存システムとAIを連携させる手段の見当がついている連携方式のメモ
PoC(小さな検証)を試せる環境がある検証用のアカウントや環境
セキュリティ要件(社外送信・ログ・権限)が整理されている情報システム部門との合意

業務への適用

設問「はい」の根拠の例
最初に適用する具体的な業務・工程が1つに絞れている対象業務の名前
その業務の現状の手順・所要時間が見えている手順書と、かかった時間の記録
AIに任せる範囲と人が担う範囲の線引きができている役割分担の図
導入後の新しい業務フローがイメージできている新しいフロー図の案
効果を「Before→After」で比較できる準備がある比べる指標と、測り方
うまくいった場合の横展開先を想定している次の候補業務

組織・人材

設問「はい」の根拠の例
現場にAI活用を推進する担当・旗振り役がいる担当者の名前
役割別(経営/推進/現場)に必要なスキルが整理されているスキルの一覧
使い方を学べる研修・勉強会の仕組みがある開催の記録
成功事例やプロンプトが社内で共有される場がある共有用のページやチャンネル
「自分の業務がどう変わるか」が現場に伝わっている説明会の資料
外部に頼り切らず、内製で回せる状態を目指せている内製化の計画

ガバナンス・定着

設問「はい」の根拠の例
AI利用のガイドライン・ルールが明文化されているガイドラインの文書
個人情報・機密情報の取り扱い方針が決まっている取り扱いの規程
シャドーAI(無許可利用)を防ぐ・把握する手立てがある利用状況の確認方法
出力の正しさを人がチェックする運用になっている確認の手順
活用度・効果を定期的に振り返る場がある定例会の記録
うまくいった取り組みを継続・拡大する仕組みがある広げるときの判断基準

DX推進指標とAI成熟度診断はどう違うのか?

DX推進指標は、全社のDX推進の成熟度をレベル0〜5の6段階で自己診断する公的な指標である。AI成熟度診断は、個々のAI活用の準備と定着を項目ごとに確かめる点が違う。

DX推進指標の自己診断はIPAが受け付けている。DX推進ポータルのWebフォームから回答・提出すると、ベンチマークレポートを取得できる(出典:IPA『DX推進指標』2026年9月、IPA)。集まった自己診断結果は分析され、公開されている(出典:IPA『DX推進指標 自己診断結果 分析レポート(2025年版)』2026年6月(差替版)、IPA)。

観点DX推進指標AI/DX成熟度診断(この記事の30問)
位置づけ公的な自己診断の枠組み社内で使う点検用のチェックリスト
評価の形レベル0〜5の6段階30問の「はい/いいえ」
主な範囲全社のDX推進と経営の仕組みAI活用の準備と現場への定着
結果の扱い提出すると他社との比較が可能社内で集計し、弱い分野を特定
向く場面全社の中期的な現在地の把握個別のAI導入を始める前の準備確認

両者がぶつかることはない。

全社の位置をDX推進指標で定期的につかみ、AI導入の企画ごとに30問で準備の具合を確かめる。この使い分けが現実的である。

診断はどの手順で実施すればよいか?

診断は、対象範囲の決定、回答者の選定、根拠つきの個別回答、回答差の議論、優先分野の決定の5段階で進める。この順にすると、1人の主観に偏らない結果を得やすい。

  1. 対象範囲を決める。全社か、特定の事業部や業務かを先に決めておく。範囲があいまいなままだと、答える人ごとに思い浮かべる組織がずれる。
  2. 回答者を選ぶ。経営側と現場側から最低1人ずつ選び、推進担当がいれば加える。
  3. 根拠を添えて、ひとりずつ答える。ほかの人と相談せずに30問へ答える。「はい」には根拠となる資料名を書き添える。
  4. 答えが割れた項目を話し合う。役割によって見えている景色が違うので、答えのずれそのものが情報になる。どちらが実態に近いかは根拠で確かめる。
  5. 優先する分野を決める。合意した結果からいちばん弱い分野を選び、次の3か月で取り組む項目を決める。

スコアはどう読み、結果をどう活用するか?

30問中24問以上なら「整っている」、14問以下なら「土台づくりから」と読む。合計点よりも、「はい」が少ない分野を次の投資先に選ぶことが活用の要点である。

スコア(30問中の「はい」)状態次の一手
24問以上整っている適用範囲を広げ、定着と効果測定に重点を移す
15〜23問着手可能チェックの少ない分野を優先して固める
14問以下土台づくりから戦略とデータの土台を固め、小さなPoCから始める

合計点が同じでも、打ち手は変わる。分野ごとの「はい」の数を並べ、いちばん少ない分野をボトルネックとみなそう。たとえば合計20問でも、ガバナンス・定着が6問中1問なら話は別だ。使う範囲を広げる前に、ルールを整えるのが先になる。効果測定の指標づくりまで進んだら、DXのROI測定の考え方と照らし合わせるとよい。診断で決めたKPIを、投資の判断につなげやすくなる。

弱い分野から何に着手すればよいか?

いちばん弱い分野の6問のうち、1〜3か月で「はい」に変えられる項目を2〜3個選んで着手する。戦略・目的が弱ければ課題とKPIの言語化、データ・基盤が弱ければ情報の線引きから始める。

弱い分野最初の一手
戦略・目的解決したい事業課題を1つ言語化し、KPIと現状値を決める
データ・基盤AIに渡してよい情報の線引きとセキュリティ要件を文書にする
業務への適用最初の業務を1つに絞り、現状の手順と所要時間を測る
組織・人材推進担当を決め、役割別に必要なスキルを整理する
ガバナンス・定着利用ガイドラインを明文化し、効果を振り返る場を定例にする

全部を一度に底上げしようとすると、どれも中途半端に終わりやすい。

全社でAI導入を進めるときの体制や進め方は、エンタープライズAI導入の進め方で整理している。分野ごとの補強を外部と一緒に進めたい場合は、AI導入・DXの支援内容も判断の材料になる。

診断で見落としやすい注意点は何か?

見落としやすいのは、経営層だけで答えて評価が甘くなることと、点数を上げること自体が目的になることの2点である。根拠の提示と複数の役割での回答が、どちらの予防にも効く。

まず、経営層だけで答えないこと。方針が決まっていることと、現場で回っていることは別の話だ。答える人には、現場の担当者を必ず含める。根拠のない「はい」も認めず、資料や記録を示せない項目は「いいえ」として扱う。

点数を目標にしてしまう失敗もよくある。スコアは順番を決める材料にすぎない。契約したツールの数で成熟度を測るのも避けたい。見るべきは業務の成果とのつながりだ。

最後に、一度きりで終わらせない。

着手した項目が変わったかを確かめるため、同じ30問で定期的に診断し直す。

Farleapの30問セルフ診断の設計

※ご提案です。当社の実施実績ではありません。

この記事の5分野30問は、株式会社ファーリープ(Farleap)が公開しているAI/DX成熟度セルフ診断の設問をもとにしている。以下は設問を組み立てるときの判断を示すものである。顧客企業での診断結果や効果を示すものではない。

5分野を各6問の同じ数にしているので、分野どうしの強い・弱いを「はい」の数でそのまま比べられる。判定の境目は24問と15問に置いた。30問の8割と5割にあたる。8割以上なら定着の段階、5割未満なら土台づくりの段階として読み分ける。

結果では合計点だけを返さず、いちばん弱い分野も示す。次に取り組むテーマの手がかりにしてもらうためだ。設問は「状態」で問う形にそろえた。たとえば「業務の成果」をゴールに置けているかのように、運用の実態を確かめる。

診断は「点数をつける作業」ではない。事業課題に対して何から手を付けるかを決める入口だと考えている。

まとめ

AI/DX成熟度診断の項目は、戦略・目的、データ・基盤、業務への適用、組織・人材、ガバナンス・定着の5分野、各6問の計30問で整理できる。30問中24問以上なら定着と効果測定に進み、届かなければいちばん弱い分野の補強が次の一手になる。

全社の位置はDX推進指標、個々のAI導入の準備は30問、と役割を分けて併用するとよい。

大切なのは点数そのものではない。

根拠つきの回答と、いちばん弱い分野の見きわめに時間を使う。それが診断を形だけで終わらせないための条件である。同じテーマの記事はAI導入・DXの記事一覧にまとめている。

よくある質問

中小企業でもAI/DX成熟度診断は使えるか?

使える。30問の「はい/いいえ」形式なら専任の推進部署がなくても回答でき、経営者と現場担当の2人で答えを突き合わせるだけでも弱い分野が見える。全社でDX推進指標に取り組む前の入口として使うのが現実的である。

成熟度診断はどのくらいの頻度で見直すべきか?

四半期から半期に1回を目安に見直すとよい。前回着手した2〜3項目が「はい」に変わったかを確かめ、次に補強する分野を決める。AI導入の対象業務を広げる前にも、同じ30問で再診断すると変化を比べやすい。

スコアが低い場合は何から着手すればよいか?

30問中14問以下なら、戦略・目的とデータ・基盤の土台づくりから始める。解決したい事業課題とKPIを1つ決め、AIに渡してよい情報の線引きを文書にする。そのうえで小さなPoCを1つ試し、業務への適用へ進む。

DX推進指標の自己診断結果はどこに提出するのか?

IPAのDX推進ポータルから、Webフォームで回答・提出する。2026年9月18日に提出方法がWebフォームへ変わり、従来のExcelファイルによる受付は終了した。提出後はベンチマークレポートを取得でき、他社との比較に使える。

更新履歴

2026-10-11 初稿公開。